国産ノコギリクワガタの飼育方法や解説

国産ノコギリクワガタ

ノコギリクワガタ(Prosopocoilus inclinatus)

・分布:北海道、本州、四国、九州

大きなオスは湾曲したアゴを持ち、昔から夏の風物詩として子供たちに大人気の昆虫です。

里山に普通に生息する種類なので飼育も簡単で初めての方にも人気が有ります。

離島産の亜種が数多く存在しており、それらと離島産と区別する為に国産ノコギリもしくは、本土ノコギリという名称で呼ばれる事があります。

海岸線の雑木林から小高い山までの比較的標高が低い場所に生息しており、標高が高い寒冷地に生息している他の昆虫と上手く住み分けを行っていると言われています。

但し、近年は温暖化の影響で少し標高が高い場所にも生息する様になり他の昆虫の生息域を奪っているという説も発表されています。

同様に体色が黒から赤褐色の個体差が存在しています。

※夜行性の昆虫なので夕方から翌日の明け方に掛けて天敵の野鳥に見つかりにくい色の物だけが太古の昔から淘汰されずに残っているとされています。

オスの大型の個体は、湾曲した大きなアゴを持っており、喧嘩も強く『水牛』と呼ばれ根強い人気を誇ります。

一方、小さなオスは、アゴが発達せずに直線的で、のこぎり状の小さなギザギザの突起がアゴの内側にあります。

(大型個体とは、全くの別種に見える事が有る)

4匹のオス

画像の4匹は、全て野外で見つけたノコギリクワガタのオスです。

大、中、小と大きさの差に伴い形の個体差も大きくなります。

自然界では、温度や餌の量で幼虫の期間が変化して早く羽化した物ほど小型化する傾向が強くなります。

逆に幼虫期間が長い(1年半以上)の物は、大型化する傾向が強くなります。

大きさは、オスで36から72ミリ、メスで19~40ミリ前後だが近年では飼育下、自然下共に更に大きな個体の報告が存在します。

寿命は、羽化してから1年前後だが野外での活動後の寿命は概ね3ヶ月前後とされます。

一般的に自然界の個体は、秋に羽化すると、そのまま蛹室内(蛹になる為の土繭)で越冬して翌年の初夏から夏に活動する場合が多いです。

※近年では、『一次発生型(越冬後の活動タイプ)』と呼ばれる事があります。

こちらの場合、梅雨から夏に掛けて樹液に集まる個体は、既に1年近く生きている事になります。

一方で近年の温暖化の影響で成長が加速して初夏(梅雨明け前後まで)に羽化した個体が越冬せずに梅雨明け後の7月後半から8月頃に発生する事が確認されています。

※こちらは、『二次発生型(早期活動タイプ)』と呼ばれる事があります。

但し、結局のところ自然界の場合、秋になるとエサとなる広葉樹の樹液が出なくなるので一次発生型も二次発生型も同様に秋になると里山から姿を消す事になります。

但し、飼育下ではエサとなる昆虫ゼリーを与え続ける事により越年(年越し)をした飼育報告が多数あります。

飼育品で約1年半、天然個体でも稀に年越しをして翌年の5月まで生きた報告が存在する事から発生時期に関わらず一応に一年前後の寿命を持っている事に変りはありません。

※勿論、寿命は生息環境や飼育環境にも左右されるので絶対性は無いです。

当店での天然採集品の越年に関する記事(2017年1月6日)>>>

メスの画像

ノコギリクワガタのメスの画像です。

メスは、全体的に丸みが有り、上翅(羽)も丸みを帯びて盛り上がっています。

オス同様に黒から赤褐色で全体的に鈍い光沢(少し艶消し状)なのも特徴の一つです。

ノコギリクワガタのメスの解説>>

天然のオスとメス

野外採集は、早ければ6月の梅雨入り前後から可能です。

梅雨入り後の蒸し暑くなる季節から徐々に個体数が増えて行きます。

活動後に越冬可能なコクワなどと比べて少し発生が遅い傾向があります。

※気温や雨量に影響されますが、概ね6月中旬から7月中旬頃に発生のピークを迎える事が多いです。

(基本的に梅雨に発生します)

夜行性の昆虫で主に、クヌギ、コナラ、ニレ、ヤナギなどの広葉樹の樹液に集まります。
飛行性が強く樹液が出ている木を目掛けて飛んでいる姿をよく見かける。

前述のとおり、小型のオスはアゴが発達していないので大型のオスに比べて明らかに戦闘能力が乏しい代りに機動性に優れます。

長年、採集に出掛けていると時間帯や天候(気象条件)、気温などで大型個体と小型個体が上手く活動のタイミング(時間帯や気候)をずらしている様に感じる時もあります。

樹液に集まるオス

高い幹や枝から出ている樹液に集まる傾向が強く、採集の際は長い虫取り網(捕虫網)や木の上まで灯りが届くライト(照明器具)が必需品です。

夜間は、木を足で蹴って揺すったり、棒で落とすと落下中に飛んで逃げてしまう事があるので注意が必要です。

ただし、早朝から夕方にかけての明るい時間帯は、飛行性が落ちるので木を揺らして落として捕まえる方法が効果的です。

飼育の様子

元々、里山の自然に生息している昆虫なので真夏の30℃を超える環境さえ避けると飼育は簡単です。

【推奨温度は、25から28度前後です。】

梅雨明け後は、日中の暑い時間帯だけエアコンの部屋に移される事をお勧めします。

オスが好戦的なので他の種類の昆虫やオスを複数入れる事を避けてください。

※原則、1ペアか単独(1匹だけ)の飼育をお勧めします。

●天然採集品は、年内で寿命が尽きてしまう事が多いです。

野外で活動している個体なので激しい運動量で消費したエネルギーを補う為に沢山の餌を食べるので餌切れには注意が必要です。

多めのエサを与えるかアゴがカップに当たらずに効率良くエサを食べる事が出来るワイドカップ昆虫ゼリー(広口型のカップ)がお勧めです。

●飼育繁殖品は越冬して翌年も生きる事がある。

飼育繁殖品は、真冬は暖房が効いていない寒い環境で冬眠させた方が長く生きる傾向が有る。

ノコギリクワガタは、羽化後の休眠期間が長いといわれるが飼育下では夏(梅雨明け)を挟んだり、真冬の過度な加温飼育の際に温度差に反応して羽化後1から2ケ月で活動(早期活動)を起こす傾向があります。

急に活動した際に餌切れを避ける為に常にゼリースプリッターでカットした餌で構わないので与えたまま状態にしておく事をお勧めします。

(新成虫/未後食個体の食べ残しは5日から1週間で交換)

羽化したばかりの新成虫は、長く飼育する為に真夏の気温を出来るだけ抑えて、ココパウダーマットで完全に潜らせてしまう飼育の方が良いです。

◆オススメ飼育用品

・Beケース(ミニ) ・コバエ防止ケース(中) ・成虫マット ・国産プレミアム昆虫ゼリー ・ゼリースプリッター ・各種エサ皿 ・クヌギの落ち葉 ・止まり木 など。

産卵の様子

産卵は、自然界で姿を見る事が出来る6から9月上旬頃までに行うと効率が良いです。

※夏の天然採集品は、メスのコンディションや寿命の事を考えると6から7月の産卵をお勧めします。

天然採集品は、活動と共に繁殖期を迎えており直ぐに産卵可能です。

また、自然界で交配している事が殆どでオスと交尾させなくてもメス単独で産卵する事が多いです。

繁殖品は、オスとメスが共に餌を食べ始めて1ヶ月頃に産卵させると良いです。

天然採集品と異なり交配(交尾)をしない限り産卵しないのでオスとメスを同居させる必要が有ります。

■産卵方法は、加水して十分に水切りを行った朽ち木を産卵用の発酵マットで埋め込む方法で大丈夫です。

直ぐに産卵しない場合もあり、幼虫が見え始めるまで2ヶ月ほど時間がかかる事もあります。

割り出し(幼虫採取)のタイミングは、飼育容器の底に幼虫(二齢)が見え始めてからで大丈夫です。

◆オススメ産卵用品

・コバエ防止ケース(中) ・産卵マット ・クヌギ材Sサイズ ・クヌギ材Mサイズ ・国産プレミアム昆虫ゼリー ・エサ皿 ・広葉樹の樹皮 ・木製プレスなど。

詳しい産卵方法を紹介した記事>>>

オスの幼虫

幼虫飼育は、マット飼育主体で行うのがベストです。

二齢になったらマットボトル800ccに入れて蛹室(蛹になる為の土繭状の空洞)を作るまで3から4ヶ月毎に交換してと良いです。

菌糸ビン飼育の際は、終齢になった途端に急に暴れる(かき混ぜ)を起こして小型化しやすいので出来るだけ高温を避けて1本目だけクヌギ500ccを与えて、2本目以降はマットボトル800ccを与えると良いです。

因にマットのみの飼育と切り替え飼育の双方で大きな70ミリが羽化しているので下記の情報を参考にしてみてください。

70ミリの羽化情報(其の一)>>>

70ミリの羽化情報(其の弐)>>>

◆オススメ幼虫飼育用品

・無添加マットボトル800cc ・遮光クリアボトル800cc ・無添加虫吉幼虫マット ・クヌギ菌糸ビン500cc(リュウキュウノコギリの仲間はブナがオススメ) など

※菌糸ビンは、初齢もしくは二齢時の1本目のみ与えます。

なお、初期段階でカップなどの小さな容器で長期間飼育すると小型化するので注意が必要です。

ノコギリクワガタの幼虫飼育方法>>>

国産ノコギリクワガタの飼育方法や解説” への2件のコメント

  1. お世話になっております。そちらで何度かクワガタ用の幼虫マットを購入しました柳と申します。細菌ビンではなく通常の飼育の仕方を去年の9月くらいからしているのですが未だ成虫になっておりません。一般的には成虫になるまではどれくらい要するのでしょうか?ちなみに幼虫マットの交換はこれまで三度交換致しました。

    • 柳様

      いつもお世話になっております。
      コメントありがとうございます。
      ノコギリクワガタの仲間は、先日ブログでもご紹介しましたが1年で羽化せずに二年一化と呼ばれる2年掛けて羽化するパターンになる事が多いです。
      特に秋に割り出しをして真冬が寒い環境での飼育の際は、幼虫が冬眠してしまい本格的な成長が翌年の春以降になってしまうので蛹化に至らずに2年目に突入する事が多くなります。
      クワガタは、カブトムシと異なり必ず翌年の夏に羽化するとは限らないので根気強く飼育して頂く必要が御座います。

      ※因にミヤマクワガタのオスは、足掛け3年で羽化する事もあります。

      ノコギリクワガタにも言えるのですが幼虫期間が長い分だけ大型個体の発生率が上がります。

      宜しくお願い致します。

コメントは受け付けていません。