自然による自然破壊
はっきり言って、私と弟は生まれて来た時からの「ムシ好き」でした。
小学生の時なんか朝の通学途中に弟と二人でカブトムシ、クワガタ採りに山に入って学校に登校せず、そのまま行方不明扱いで捜索が入る寸前でした。自慢ではありませんが、かなり普通ではありませんでした。
生まれて来た時から地元、九州の大自然で育ってきましたが、私が住んでいる所は35年前と全く変わらずに自然が豊かなままです。
なのに、カブトムシやクワガタは物凄く減少しています。
最初はメディアや専門家が言っている様に開発や乱獲による激減と思っていました。
確かに国産オオクワガタは繁殖木や幼虫がいる朽ち木を叩き割る(朽ち木割り採集)でほぼ全滅してしまっています。
が、朽ち木割り採集がされていない私の住んでいる地域の山でも年々減少の一途を辿っています。
久しぶりに子供の時に採集に行っていた山に入った時にその原因がはっきりと分かりました。
開発の手が及んでいない人気を閉ざした山で全てのクヌギが倒れて枯れていました。
クヌギの木を枯れさせているのは竹(タケ)です。
こんなことを言っても信じる人はいないと思いますが、確かに「自然が自然を殺し合う姿」がそこに存在していました。
実は現在、日本に存在している竹の殆どが大昔に大陸から持ち込まれたとされる外来の物が多いのです。
代表的な物は孟宗竹(もうそうちく)で三国志に出てくる人物に因んでいる事からも容易に推察出来ます。
話しは戻りますが、実際に山奥に入ってその現状を見てみました。
これが「竹林」です。
一見、ただうっそうとした雰囲気のあるだけです。
信じられないかもしれませんが、20年前までは開けた雑木林だったんです。
実際にこの竹林の中で何が起こっているか見てみます。
先ほどの外からの画像とは一変して、竹林の中は脚の踏み場が無い程に荒れ果てています。
竹林の外見の画像と竹林の中の画像から見ても竹以外の植物がほとんど生えていないことが伺えると思います。
しばらくこのまま山の中に入って行くと。。。
既に竹に巻き込まれてクヌギの木が息絶えています。
更に奥に入って行くと。。。
これもまた竹に巻き込まれてクヌギの木が枯れて倒れてしまっています。
しばらく進むとこのクヌギも枯れてしまっています。
立ったままの状態で竹に殺されています。
このクヌギも立ったまま既に息絶えています。
この様にこの山ではカブトムシやクワガタのエサ場となるクヌギの木が竹により全滅してしまっています。
もうこの山には、樹液に集まる昆虫たちが住む所が有りません。
竹は1年で20メートル以上の高さに育ちますが、木は1年で数十センチしか育ちません。
竹は日照不足を招いたり、根の成長を妨害して他の植物が育つ事が出来なくなります。
また、竹は根が地表に張る為、大雨や土砂災害に弱い土壌になってしまいます。
この様なことは少なくても30年前までは有りませんでした。
ここ十数年前から急に竹が牙を剥き始めました。
農業が自由化されて農林業が衰退したこと、バブルがはじけて土地を放置する人が増えたこと、地球温暖化により高温を好む竹林が猛威を振るい始めたことなど色々な要因が考えられますが、田舎者の私が一番の原因と感じているのは「農林業の衰退」による後継者不足と高齢化だと考えています。
簡単にメカニズムを説明すると、「森林(自然)開拓」→「農地(耕作地)」→「耕作放棄地(荒れ地)」→「放置竹林」→「竹林の拡大による森林面積の減少」になり周りの森林を飲み込みながら拡大して行きます。
この現象は人間の都合により生み出された 「偽りの自然」といっても過言ではありません
しかし実際問題、山を「豊かな雑木林」に保つことは想像を絶するくらい大変なことです。
高齢化された農林業では豊かな自然(雑木林)を保つことが限界に達しています。
おそらくこの高齢化された知識ある従事者達がこの世から去ったころから山の秩序が保てなくなってきて、カブトムシやクワガタの激減がより一層、加速されると考えられます。
一歩間違えれば、国産オオクワガタ同様に絶滅の一途を辿るかもしれません。
また雑木林の減少が野生動物の生活の場を奪い去り、自然界と人間界との境界を越えてしまった動物達が、無惨な最後を迎えるという悲劇を生み出しているのも、ご存知のとおり事実です。
私と弟はこの様な現状に目を向け、実際に昆虫や野生動物の生命の源である雑木林を確保しようと考え昆虫たちが集まるドングリの森を作っています。
先祖代々の山の一画を2年くらい掛けて全ての竹を切り開きましたが、その作業は想像を絶するほど困難を極めました。
竹を切り開く作業(竹伐)は本当に大変で足場や作業をするスペースがない竹林では作業効率が悪く、1日作業をしても数メートルしか進まないとか多々有りました。
オマケに竹の枝は凶器になり、体中に刺さりまくります。
痛い話しですが、目や鼻、耳に当たると大変な事になってしまいます。
何度か危ない目に遭いました。
これだけでは終らないのが竹林の恐さです。
竹は地下茎(地下にある根)を地中に縦横無尽に張り巡らさせている為、竹を切っても地下茎から新しい竹がドンドン生えてきます。
夏場に1ヶ月も手入れしないと10メートルくらいの竹が数え切れないくらい生えてきて、また竹林を形成しようとします。
その為に1年掛かりでツルハシで竹の地下茎を掘り起こしました。
地上からは地下茎が見えないので竹伐をした場所を全てツルハシで掘り起こしました。
手はマメだらけで、ツルハシの衝撃は指や肩を痛める程でした。
竹林の更に恐いところは、密集した地下茎により土の栄養分が全て吸い取られてしまい、他の植物すら育たない「死の土壌」になっていることです。
この土壌を復活させる為に堆肥や腐葉土を混ぜ込み、植物が育つ環境になるまで更に1年掛かりました。
カブトムシの森に草木の花が咲き始めるまで更に1年掛かりました。
大変な事に今でも時々、竹が出てきます。
実際に作業に当たって気が付いたことは一度失った秩序ある自然を再生する難しさです。
竹伐をしてそこにクヌギの苗木を植えてもなかなかカブトムシやクワガタが棲み付く様な大木にはなりません。
ちなみに下の画像は、森に植樹してから数年後のクヌギの木です。
まだ2、3メートルくらいの高さしか有りません。
この様に自然の再生には非常に長い期間と労力が必要となります。
でも春になって青葉が出てくるとちょっと嬉しくなります。
今までこれで満足していましたが、実際に里山の環境が危機的になってきていることをひしひし感じ始めました。
このままではと思いました。
もう一度、消えかけた志しに灯がともりました。
勇気を出して「ドングリの森2号」に挑戦してみます。
たった二人の小さな力でも再び緑を取り戻す事が「可能」である事をお伝えする為に・・・
●虫吉の森づくりの記録>>
by.クワガタ工房 虫吉
小澤智己、浩己